2023年4月に成立した『フリーランス新法』。フリーランスの就業環境を守るため、報酬不払い防止や取引条件明示が義務化されました。本記事では、法律の概要から違反事例(KADOKAWAのケース)まで、わかりやすく解説します。
目次
フリーランス新法とは?
フリーランス新法は、フリーランスとして働く人々を守るための法律です。主に、発注者との取引条件を明確にし、報酬の不払いを防ぎ、安心して働ける環境を整備することを目的としています。この法律は、フリーランスの権利を保護し、トラブルを未然に防ぐための重要な基盤となっています。
背景と目的
日本ではフリーランス人口が増加しており、働き方改革の一環としても注目されています。しかし、フリーランスに関するトラブルが増加し、社会的課題として浮上しました。その背景には次の問題がありました。
- 取引条件が不明確:業務内容や報酬が口頭で決まることが多く、トラブルが発生しやすい。
- 報酬未払いの問題:発注者の一方的な支払い遅延や未払い。
- 就業環境の不備:ハラスメントや育児・介護との両立が困難。
これらを解決するために、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス新法)が制定されました。この法律の目的は、
- 取引条件の適正化
- フリーランスの就業環境整備
を図ることです。
適用範囲
フリーランス新法は「特定受託事業者」として働く個人事業主や法人に適用されます。具体的には、以下の条件を満たす方々が対象です。
- 従業員を雇用せず、発注者から業務を受託する。
- 法人の場合、役員以外に従業員を持たない。
一方で、消費者向けの取引(BtoC)や一般的な商取引には適用されません。
フリーランス新法の主要なポイント
フリーランス新法は、特定受託事業者として働くフリーランスの取引条件を適正化し、報酬の未払いを防ぐための重要な規制です。この法律の枠組みは、フリーランスと発注者の間の公平な関係を築くことを目的としています。具体的には、取引条件の透明性を確保し、ハラスメントを防止するための措置を講じることを求めています。以下に、この法律の主要なポイントを詳しく説明します。
取引条件の明示義務
発注者は、特定受託事業者に対して業務内容、報酬、支払い期日、契約期間などの条件を明確に示す必要があります。これらは文書または電子メールでの交付が必須です。
ポイント:
- 明示する内容は具体的でなければならない。
- 受託者が書面での交付を求めた場合、発注者は書面での交付に対応する必要があります。
報酬支払い期日と遅延防止
特定受託事業者が業務を完了した場合、発注者は60日以内に報酬を支払わなければなりません。また、再委託の場合でも、元の発注者から支払いを受けた日から30日以内に支払う義務があります。
支払いの具体例:
- 発注者が5月1日に業務完了の通知を受けた場合、7月1日までに報酬を支払う必要があります。
- 再委託の場合、元請けの支払い期日から30日以内に下請け業者に支払いを完了する義務があります。
3. ハラスメント防止と就業環境の整備
発注者には、受託者に対するセクハラやパワハラを防止する措置を講じる義務があります。また、妊娠・育児・介護などの個別事情に配慮した柔軟な対応も求められています。
ハラスメント防止措置の例:
- 相談窓口の設置
- 定期的なハラスメント研修
【実例】KADOKAWAの違反事件
フリーランス新法成立以前にも、類似の規制が適用される事例がありました。2024年、公正取引委員会は株式会社KADOKAWAおよびその子会社に対し、下請法違反で勧告を行いました。
(令和6年11月12日)株式会社KADOKAWA及び 株式会社KADOKAWA LifeDesignに対する勧告について
引用元:www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/nov/241112_kadokawa.html
違反内容
- 一方的な報酬単価の引き下げ
- 雑誌「レタスクラブ」の記事作成業務において、報酬を最大39%引き下げ。
- 下請業者との協議が十分に行われていなかった。
- 子会社による引き継ぎ
- 子会社LifeDesignが、親会社が設定した引き下げ後の報酬単価をそのまま適用。
公正取引委員会の勧告
- 報酬単価を遡及して適正な水準に引き上げる。
- 類似の違反を防ぐための社内体制を整備する。
この事例は、フリーランス新法の重要性を浮き彫りにしました。適切な取引条件がない場合、企業側もリスクを負うことになります。
フリーランス新法と下請法の違い
両者は似ていますが、適用範囲や目的に違いがあります。
項目 | フリーランス新法 | 下請法 |
---|---|---|
対象 | フリーランスや個人事業主 | 資本金が一定以下の事業者 |
目的 | 取引適正化と働く環境の整備 | 下請取引の公正化 |
具体例 | 取引条件明示、ハラスメント防止 | 支払い遅延や報復措置防止 |
フリーランスができるトラブル防止策
フリーランスとして働く際、トラブルを防ぐためには事前にできる準備と対応が非常に重要です。フリーランス新法を活用し、自身を守るための具体的な方法を以下に詳しく説明します。
契約内容を明確にする
フリーランスでのトラブルの多くは、契約内容が曖昧であることが原因です。そのため、契約を結ぶ際は以下の点を徹底しましょう。
- 書面での契約: 必ず業務内容、報酬額、支払い期日、契約期間を明記した書類を作成し、双方で確認します。
- 電子メールの保存: 書面が用意できない場合でも、取引に関するメールやメッセージを記録として残しておきます。
- 条件変更時の記録: 途中で条件が変更される場合、その内容も書面やメールで記録することを忘れないでください。
報酬支払いを確認する
報酬の未払いは深刻な問題です。これを防ぐために、以下の手順を取ると安心です。
- 支払いスケジュールの確認: 業務を開始する前に、報酬の支払い期日や支払い方法を発注者と合意します。
- 支払い期日の監視: 報酬が期日内に支払われない場合は、まず発注者に確認し、必要に応じて法的手段を検討します。
- 相談機関の活用: 支払いトラブルが解決しない場合、「フリーランス・トラブル110番」などの相談窓口を利用しましょう。
ハラスメントへの備え
発注者からのハラスメントは、フリーランスが直面する可能性のあるリスクの一つです。これに対する準備と対応策を講じましょう。
- 相談窓口の確認: 発注者や業界団体が提供する相談窓口があれば、事前に情報を把握しておきます。
- 証拠の保存: ハラスメントが発生した場合、その状況をメールや録音で記録します。
- 法的手段を検討: 深刻な場合は、公的機関に相談し、必要ならば弁護士を通じて対応します。
法律知識を身につける
フリーランス新法の基本を理解しておくことで、トラブルを予防できます。以下の点を特に意識してください。
- 取引条件明示義務: 発注者が契約内容を文書で提示することを義務付けています。
- 報酬支払い期日: 業務完了後60日以内に支払いが行われるべきであることを知っておきましょう。
ネットワークを活用する
同じ業界で働く他のフリーランスとのネットワークを築くことで、情報共有や支援が受けられます。
- コミュニティ参加: オンラインフォーラムやイベントで他のフリーランスとつながりましょう。
- トラブル事例の共有: 他のフリーランスが経験したトラブル事例を学ぶことで、自身の予防策に役立てます。
発注者が守るべきルール
発注者は、フリーランス新法に基づき、適切な取引環境を整える責任があります。これにより、発注者とフリーランスの間に信頼関係を築き、トラブルを未然に防ぐことができます。このセクションでは、発注者が守るべき具体的なルールとその重要性を詳しく解説します。
明確な取引条件の提示
発注者は、フリーランスに対して業務内容や契約条件を明確に提示する義務があります。条件が曖昧な場合、誤解やトラブルの原因となります。
- 業務内容の詳細説明: 業務の範囲、成果物の基準、納期を具体的に示します。
- 報酬の明示: 報酬額、支払い方法、支払い期日を明記します。
- 書面または電子メールの交付: 取引条件は必ず文書やメールで交付し、証拠として残します。
明確な取引条件を提示することで、フリーランスは安心して業務に専念できます。
適正な報酬の支払い
発注者は、フリーランスが提供した業務に対して、適切かつ迅速に報酬を支払う義務があります。
- 支払い期日の遵守: 業務完了後、60日以内に報酬を支払います。
- 不当な減額の禁止: フリーランスに対し、一方的に報酬を減額する行為は禁止されています。
- 透明性の確保: 報酬計算の根拠や方法を明確に説明します。
適正な報酬を支払うことで、フリーランスのモチベーションが向上し、長期的な信頼関係が築けます。
働きやすい環境の提供
発注者は、フリーランスが快適に業務を行える環境を整える責任があります。
- ハラスメント防止: パワハラやセクハラを防ぐため、相談窓口を設け、問題が発生した場合には迅速に対応します。
- 個別事情への配慮: 妊娠、育児、介護などの事情がある場合は柔軟な対応を行います。
- 公平なコミュニケーション: フリーランスを対等なビジネスパートナーとして尊重し、公平な態度で接します。
法律の遵守と社内体制の整備
フリーランス新法を遵守するためには、社内体制を整備し、社員全員が法律の内容を理解している必要があります。
- 社員向けの研修実施: フリーランス新法や関連法令についての研修を行い、全社員が法令を理解します。
- 内部監査の実施: 定期的に取引内容を確認し、違反がないか監査します。
- 改善措置の実施: 問題が発覚した場合は速やかに改善策を講じます。
これらの取り組みにより、発注者は法律違反のリスクを減らし、フリーランスとの健全な取引関係を維持できます。
発注者がこれらのルールを遵守することは、単に法律を守るだけでなく、ビジネスの信用を高めることにも繋がります。フリーランスとの取引は、双方が対等な立場で利益を共有する関係であるべきです。
発注者側も法律を遵守することで、信頼関係を築くことができます。
まとめ
フリーランス新法は、フリーランスとして働く人々と発注者の双方にとって、取引の公正性と環境の改善を目指す重要な法律です。この法律がもたらす変化は、個人事業主がより安全で安定した仕事環境を得るために不可欠であり、また発注者にとっても法的リスクを軽減し、信頼関係を構築するための土台となります。
フリーランス側の視点
フリーランスにとって、この法律を理解し、実践することはキャリアの成功に直結します。契約内容を正確に記録し、トラブルが発生した際に適切に対応できる準備を整えることが重要です。さらに、ハラスメントへの対処や報酬の未払い問題に対する対策を講じることで、安心して業務に取り組むことができます。
- 契約書の活用: 契約内容を文書化することで、トラブルを未然に防ぐ。
- ネットワークの構築: 他のフリーランスとの情報共有がリスク管理に役立つ。
- 相談窓口の利用: 問題が起きた際に、適切な機関を利用して迅速に対応する。
発注者側の視点
発注者にとっても、この法律を遵守することは、信頼されるビジネスパートナーとしての評価を高める重要な要素です。取引条件を明確にし、報酬を適正に支払うことで、フリーランスとの良好な関係を築くことができます。
- 明確な契約内容の提示: フリーランスが安心して業務を遂行できる環境を整える。
- 社内体制の整備: 社員全員がフリーランス新法を理解し、違反のリスクを回避する。
- ハラスメント防止策の実施: 公平で健全な取引環境を提供する。
法律の未来と展望
フリーランス新法は、働き方の多様化に対応するための第一歩です。しかし、社会や業界の状況に応じて、さらなる改正や関連施策が求められる可能性があります。フリーランスと発注者の双方が協力し、この法律を適切に運用することで、より良い労働環境を実現することができるでしょう。
本記事が、フリーランス新法の理解と実践に役立つことを願っています。ぜひ、ここで得た知識を活用し、公正で安心な取引環境を築いてください。